2010/1/3 13:24:10 [344]
2010/1/3 13:24:3 [891]受験勉強のため、一年間これなくなりました・・・。 応援してくれていた人が居たらたへん申し訳ありませんが、この話はここで終わりです。受験が終れば戻ってきます。それでは!
2009/12/30 23:19:19 [910]早朝、馬にまたがった、桃色の髪をした少女が首都への道をひた走っていた。無論ファイルである。ウィルに魔法を教えた翌日、盗賊から聞いた証言を国王に伝えるために、宿で馬を借りすぐさま首都へととんぼ返りしたのだ。 一応ウィルに別れを告げようともしたのだが、ウィルはファイルより早く起きて、魔法の調子を確かめた後、さっさと西の山脈へ行ってしまった。 「まったく。あの馬鹿者が!あんな戦闘ではなんの役にも立たない魔法を覚えていったいどうするつもりだ!」 理解不能なウィルの選択に、ファイルが眉をひそめている頃、 「ああ、ファイルが言ったことは本当だったんだ・・・。」 町を出てから約一キロ行ったあたりだろうか、ウィルは見事に柄の悪そうな奴らに囲まれていた。 「おうおうおうおう!お兄さん異世界から来た人かぁ?」 「いえ、違います。人違いです。」 即効で嘘をついた。とうぜんである。こんな所でこんなバカたちに時間をとられている余裕はないのだ。見たところたいした装備も持っていなさそうだ。初めに襲ってきた盗賊達のように統一感もない。せいぜい、映画の始めに出てきてぶっ倒される三流悪役といった役どころの人たち。だが、 「そうかい。じゃあ有り金全部置いていけや!」 「どっちにしても襲うのかよ!」 ウィルのツッコミを一切無視して、盗賊たちはウィルに向かって武器を振り下ろした。しかし、 「!」 その武器はすべてことごとく空を切る。 「な、何だ!」 その瞬間、約二キロ離れた場所に、 「はぁ、効力中にここまで走るのは大変なんだぞ・・・。」 息切れをしたウィルが出現していた。 「ば〜か!俺は喧嘩なんてうまれてこの方やったことがない超臆病者だぞ!まともに付き合っていられるかよ!」 そう彼が魔法を覚えたのは、戦うためではない・・・。全力を持って逃げるためだ! 後に、彼のその魔法を見た人々は彼のことをこう読んだ。 曰く、「《逃走》のウィル」と。
2009/12/28 21:43:24 [336]そうだったんですか・・・。 すごいです!
2009/12/25 20:51:39 [372]やっぱりすごいです^^ ウィルって日記ではしらぬまに決まってました;
2009/12/25 10:28:42 [73]《外伝》 「・・・それで、いつまでいるつもりなんですか?」 まるで見えない床に支えられているかのように立ち並ぶ宙に浮く本棚たち。少女はもくもくとその下で本を読んでした。その目の前には一つの机が置いてあり、《司書》と名札をつけた少女がその上に座り、つまらなさそうに足を揺らしていた。 「必要な知識を手に入れるまでに決まっているじゃない!ここは本を読んだだけでその知識が入ってくるのよ!すごいじゃない!ここで勉強したら大学受験なんて一発で受かっていたわよ!」 「浪人しているんですか?まぁ、私には関係ないですけど・・・。先ほどから頭痛がしていると思うのですが、それは脳細胞が焼ききれているのですよ。本に貯蔵してある情報の膨大さに、脳みそが悲鳴を上げてもう読むのをやめろと警告しているのです。」 確かに、少女の頭は信じられないほどの頭痛に襲われていた。まるで頭蓋骨を割られ、その中にある脳みそに直接彫刻等で文字を掘り込まれるほどの痛み、と表現すればわかってもらえるだろうが。だが、少女は脂汗を浮かべながら不敵に笑った。 「はん!その程度の痛みがなによ!弟が、大事な家族が苦しんでいる時に私が頑張らなくてどうするのよ!」 そう言って再び本に目を戻した少女を見て司書は溜息をついた。 「まったく・・・八王卿といい颸新卿といい、人間はどうしてバカなのでしょうか・・・?」 そう呟くと、司書はふわりと浮き上がり頭上の書棚から何冊かの本を取り出し、少女の前においた。 「・・・これは?」 「ここでしなれたら困ります。この本は覚えるだけで人体を活性化させ回復を促してくれるものですから、これ以上続けるつもりならまずこちらから読んでください。」 少女は少し驚いた後、綺麗な微笑を浮かべた。 「ありがとう!使わせてもらうわ!」 その笑顔を見て、まぁ、だから人間は美しいのですが・・・と司書は苦笑した。
2009/12/25 10:11:44 [680]いえ、そういうわけでは・・・ウィル君は普通の日本の高校生でした^^(あくまで過去形)
2009/12/24 17:20:46 [665]外国人が主人公なんですね!
2009/12/24 14:55:40 [322] 《突然出現。大長文!読む気が失せた人は読む必要なし!》 ・・・ウソです。読んでください・・・。上に書いてあるとおり元々日記にあったものです。 いまのところ出ているので全部です^^ 気に入ってくれたら嬉しいです^^
2009/12/24 14:50:14 [976]「結界魔法の一種でな、自分から半径30cm程度の薄いマクを張って、その内側の空間だけ時間を一気に加速させる魔法だ。これなら、運動神経は関係ないし自分自身が普通に歩いているだけなので、何かにぶつかるということはない。ただし、この魔法は地面以外のものに結界が触れるとあっという間に破れてしまうから加速中は何かに触れるということが出来ない。」 「いや、それでいい!むしろそれがいい!」 「・・・?」 ウィルが何を狙っているのかさっぱり分からなかったがファイルは言われたとおりその魔法を教えた。今回は会得に数日かかかったが、それは、二人で帰ってもう一度出直すよりもはるかに短い時間だった。惜しむべきは・・・ 「これほどの才能がありながら、コイツにこの魔法を覚えるつもりが一切ないことね・・・」 結界魔法を覚え、もう残像をのこしながらビュンビュン走り回るウィルを見て、ファイルは少しだけ溜息をついた。
2009/12/24 14:49:53 [524]「本当に、こんな奴に教えて大丈夫なのかしら・・・。」 とある峠にある小さな宿屋。その庭で壮絶な音と共に、物凄い勢いで大木に突っ込んでいき、目を回しているウィルを見つめ、ファイルは大きく溜息をついた。 確かに二人の意見を成立させることは、先程ウィルが提案したとおり、彼に魔法を覚えてもらうしかない。しかし、軍人のように使いこなせるまでとなると相当な時間がかかる。だから、ウィルは覚える魔法を絞り込んだ。 曰く。足が速くなる魔法。 『そんなもの覚えてどうする。普通に力が強くなる魔法とかのほうが・・・。』 『いいの、いいの。こっちにはこっちの考えって物があるんだから!』 ファイルは不思議に思って、そう尋ねてみたがウィルはイタズラっぽい笑みを浮かべ答えようとはしなかった。 「まぁ、確かに肉弾戦で速さは重要だけど・・・。」 現にファイルはそのおかげで《閃光》の異名をとることが出来たのだ。 「だからといって、足が速くなるだけで、戦闘が強くなるかといえばそうでもないわけで・・・。」 いくら早さが戦闘に必要不可欠と言っても、それだけで強くなるわけではない。むしろ速さだけを上げすぎて・・・。 「も、もう一回だ!」 「やめておいたほうがいいと思うが・・・。」 意識を取り戻したウィルは再び呪文を唱え、加速する。ここまでは順調だった。魔力の使い方も悪くないし、上手く加速している。しかし、 「うぎゃぁあああああああ!」 今度は宿の塀にぶつかり悲鳴を上げる。速さだけを極めすぎると、こんな風に体の自由が利かず直進しか出来なくなるのだ。 「な、なぁ。もっと安全に加速できる魔法ない?」 「なくはないが・・・攻撃が出来なくなるぞ?」 「いや、俺としてはむしろそっちのほうを教えて欲しかったんだ!」 わけもわからないまま、ファイルはその魔法を教えた。
2009/12/24 14:49:20 [527]「うん・・・ここは?」 目を覚ますと、そこには無表情のまま自分の顔を覗き込む、ファイルの姿があった。 「・・・そんなにムッツリしていると、心配しているのか、殺そうとしているのかわからないぞ。」 「いまのところそれらの選択肢をとる可能性は、半々だな。」 「マジで!」 顔を真っ青にして飛びのくウィルに、少しだけ微笑を浮かべると、ファイルは近くの椅子へと座った。 「それだけ動ければ充分だな。」 からかわれたと気づいたウィルは、しばらく憮然としていたが、しばらくして、自分がいる場所が森の中ではなく、小さな部屋だということに気がついた。 「俺たち盗賊に襲われていたよな?」 「追い払っておいた。殺してはいないのでまた追ってくるかもしれないが。」 「それは良かった。」 「・・・。どうして殺さなかったとはいわないんだな?」 「あ、なんでだよ?」 「いや・・・。」 ファイルは、何かを思い出したのか複雑な笑みを浮かべてその話を打ち切った。 「ところで、あの盗賊が我々を襲った原因だが・・・」 ファイルは、盗賊から聞いた話をウィルにそのまま語って聞かせた。 「というわけで、本国に帰って、このことを報告したいのだが・・・。」 「そ、それは困る!俺だって早くこんな危ないところから帰りたいのに!」 「だが、このまま報告をしないわけにもいかないのだ!お前もこれ以上無駄な死人を出したくないだろう!」 その言葉で、ウィルは頭を抱えた。確かにもとの世界へは早く帰りたい。だがそのために誰かが死ぬのは嫌だ・・・。かといってファイルだけを帰したら、俺一人では辿り着けないだろうし・・・。 しばらく考えに考えて、頭が白熱するほど考えた結果、 「あ、そうだ!」 そう言って、ウィルはとんでもないことを言い出した。 「ファイル、俺に魔法を教えてみない?」
2009/12/24 14:48:53 [89]無数の男達が倒れ付す森のなか、ファイルは少し考える。この世界に渡ってくる人々を殺している人間がいる・・・。 「由々しき事態だな・・・。」 事故のようにこちらへ来た人々には悪いが、彼らが持ってくる異界の技術はこの世界にとって、かなりありがたいものだった。それらのおかげで、治水は進み、穀物生産率も上がった。最近では、魔法が使えない市民でも扱える、銃という物も開発されていた。 「うちの国では、保護法すら施行されているのだぞ・・・国家を敵に回すことになってもいいというのか?」 何やら、とんでもないことが起こっているようだ・・・これは一旦本国に帰って報告したほうがいいのではないだろうか・・・。 「・・・まぁ、いい。それはウィルが起きてから考えよう。」 ファイルは、そう呟くと気絶している男のそばに金貨を三枚置いていく。それなりの金額だ。少なくとも病院のお世話になることぐらいは出来るだろう。 「こんなくだらないことはやめて、子どもに胸をはれる大人になるのよ・・・。」 まだ十七なのにオバサンくさいことを言ったかな?ファイルは少しだけ苦笑した後、まるで幻のように姿を消す。あとには、木の葉を巻き上げる小さな木枯らしが残った。
2009/12/24 14:48:36 [966]「やりましたね、大将!奴ら吹っ飛びましたよ!」 無数の魔法によって、大きなクレーターのようにへこんだ大地を見つめる男に、彼の腹心の部下が駆け寄ってきた。 「ああ、これで、お前の奥さんの出産費用も稼げたな・・・」 「ちょ、何で知っているんですかそのこと!みんなに迷惑かけないように黙っていたのに!」 「俺は何でも知っているんだぞ。」 男は笑いながら、部下の肩を叩く。部下のその言葉に苦笑を浮かべ、ありがとうございますと礼を言った。 しかし、 「変速・・・目前へ収束。」 女性特有の少し高めの声と共に、桃色の髪をなびかせ、気絶したウィルを担いだ少女が出現する! 「な!」 「うそだろ!」 「お前達が話していたのは一兵卒までの話だ。隊長クラスの実力者にこの程度の人数は障害のうちにも入らん。覚えておけ。」 完璧な無表情のまま、少女はそう呟いた。それと同時に、男の後ろに立っていた部下達が全員地面に倒れ付す。 「まさか・・・おまえ、《閃光》か!」 「気づくのがおそかったな。」 少女がそういうのと同時に男は首筋の衝撃を感じる。何かされたのは分かったが、何をされたのかは分からなかった。男の意識はそのまま、真っ暗な闇へと沈んでいった。
2009/12/24 14:48:15 [109]「浮遊術・・・どうして山賊風情が!」 男の体は、地面から数センチほどの高さで浮いていたのだ。 「まぁ、これしか出来ないがな。他のやつもそれぞれ一つずつ魔法が使えるぞ。」 「どうして・・・うちの軍しか習得方法を知らない最重要機密なんだぞ!」 ファイルがとんでもなく動揺する姿を見て、ウィルはようやくそれが異常な事態と言うことに気づいた。というか、ファンタジーなのに魔法が非常識ってそれもうファンタジーじゃないだろ。と、内心思ってもいたが。 「俺らには、特別な情報源がいるのでね。とはいえ、さすがにあんた達が十何年もかかって習得するほどの魔法は覚えられなかった。だから、こんな風に一人二月一つずつ覚えたわけだ。だが、さすがに六十人の男達が一斉に六十個の魔法を放てば、軍人だろうがひとたまりもないよなぁ!」 男がそう叫ぶのと同時に、周りを囲んだ男達が、一斉に呪文を唱え無数の魔法を発動させる。氷の矢。焔の弾。雷の槍。風邪の刃。などなど。様々な魔法がきらびやかな光を伴い発動する。 「おっと。そういえばあんたの質問はどうして貴族でもない自分達を狙うのかだったな。俺たちはさるお方から異界の人間を抹殺するように言われているのさ。」 「さるお方?」 「報酬が結構良くてな。こうやってゲリラ的に殺すだけでも随分な学がもらえるんだぜ。」 「貴族しか襲わないのは、義賊を気取っているからだと思っていたのだが?」 「は!バカじゃねぇの?貴族しか襲わないのは貴族のほうが金を持っているからに決まっているだろうが!おまけにこの国の貴族どもは魔法が使える軍人達を頼りっきりにしているから、奴らさえ叩けば、アッサリ略奪ができるんだぜ!」 男は下品に笑い、部下達に魔法を放つように指示を出した。そして、ファイルたちに無数の魔法が突き立ち森の中に目もくらむような閃光がほとばしる。 そして、光がやんだ時、そこにファイルたちはもういなかった・・・。
2009/12/24 14:47:44 [442]「おっと、ちょっと待ってくれるかなあ二方。ここから先は通行止めだ。」 突然、木の上から声が降ってきた。 「ん?」 「なんだ?」 二人が慌ててそこへと顔を向けると、青い華麗な礼装を着込んだ男が木の上で下品に笑っていた。 「何だ、貴様は。」 「ひゅぅ。こりゃほんとにべっぴんさんだ。あいつの情報はいつも正確で助かるぜ。でてこい!ヤローども!」 男の合図と共に、森の中から服だけは上等な男達が、ぞろぞろと出てくる。 「ああ、貴様らか。ここら辺で貴族ばかりを狙う山賊と言うのは。」 ファイルはいたって冷静な口調でそう呟き、ウィルは突然陥った危険な事態に、顔を引きつらせた。 「ほほう。王都でも俺らは有名になっているのかい。そりゃ上々。」 「ええ。襲った貴族を必ず殺して、身包みをはぐ変態集団だとね!」 ファイルは素早ブーツに隠してあったナイフを引き抜き、木の上に立っていた男に向かって投擲した。しかし、男はそれを枝に足を引っ掛け、ぐるりと回ることでやすやすとかわす。運動神経はかなり高いようだ。 「でも、私達は貴族じゃないわよ?どうしてそんな人たちを狙うのかしら?」 「いきなりナイフを投げた女のセリフじゃねぇよな、それ。話聞きたいんだったらもっと友好的な態度を取るだろ、普通。」 男はそう言いながら、足を伸ばし、木の上からまっさかさまに落ちてきた。 「な!」 「おや?」 男に理解不能な行動に、ウィルとファイルは一瞬固まる。しかし、男は地面に激突することはなかった。
2009/12/24 14:47:21 [871] しばらく街道を進むこと4時間。ファイルは突然、街道から外れ、木々が多い茂る森の中。そこの細い獣道を進みだした。 「ちょ、おい!どこへ行くんだよ!」 いきなりの方向転換に、いいかげん歩き疲れてボーっとしていたウィルは、慌ててついていく。 「普段誰も行かないところに街道をしくわけないだろ。西野山脈への道は整備されていないのだ。魔物がそこを使って町へ降りてきても困るし。事実上あそこは封鎖されている扱いを受けている。」 「前から、聞こうと思っていたんだが魔物ってそんなにやばいものなのか?」 「・・・。」 ファイルはしばらく考え込んだ後、振り返らずにウィルに尋ねた。 「お前は魔物についてどのような知識を持っている?」 「え?ここに来たの初めてなのは知っているだろ?」 「そういうことではない。どのような認識を持って魔物を捕らえているのかと聞いている。」 「・・・。」 そんなこと言われても困る。俺の世界に魔物なんて存在しない。思い描けるとしたらせいぜい、某ゲームのキャラクターたちぐらいだ。 「ど、ドラゴンとか?」 「ああ、この前ロンギヌスが言っていた、羽の生えた蜥蜴のことか。」 ファイルは世界で一番有名な魔物を一言で一蹴し、鼻で笑う。 「いいか、このセカイの魔物にはそんな奴はいない。お前達の認識で一番近いものといえば・・・幽霊か。」 「ゆ、幽霊!」 「ああそうだ。実態のない影がごとき存在。それが魔物だ。」 「なんだか弱そうだな・・・。」 無視すれば案外大丈夫かも・・・。ウィルの頭の中にそんな考えがよぎるが、 「くだらないことを考えているなら認識を改めろ。実体がないからこそ恐ろしいのだ。」 ファイルの冷徹な声によって、身を縮めた。よく見るとファイルの細い肩が小刻みに揺れている。もしかして、魔物を恐怖しているのだろうか?仮にも一国の精鋭部隊の隊長を勤めるこの女が。魔物とはいったい・・・その時
2009/12/24 14:45:41 [456]少女は、ゆったりと湯気を立てるダージリンティーをじっと睨みつけていた。 「どうした?紅茶はお気に召さなかったか?」 「いやそうではなく・・・。」 「あほ!彼女は日本人なんやからお茶は抹茶に決まっとるやろうが!」 「そういうことでもなく!」 八王と言う少年が名乗った後、八王はもう言うことはないとばかりに、さっさと安楽椅子に戻ったのだが、 「女の子のエスコートぐらいせんかい!」 という、颸;新の言葉に不服そうに従い紅茶をいれてきた。 そして今の状況に成るわけだが・・・。 「いったい、何が起きているの!ここはどこ!私は誰!」 「・・・。」 こんな状況では定番のギャグを言ってみたのだが、八王は眉一つ動かさず紅茶を優雅に口へと運び、颸;新は、 「う〜ん、二十点。それ頭殴られた時のギャグやから。」 意外に厳しい判定を下す。ヤバイ、完全に滑った。クラスではそれなりに面白いキャラとして通っているのに・・・。 「くだらない話は終ったか。」 「くだらないとは何よ!お笑いは人生の調味料なのよ!お笑いを笑う者はお笑いに泣くんだから!」 「いや、お笑いは笑われて何ぼやから、別に笑われてもええやろ!」 「颸;新を見習いなさい!こういう絶妙な突込みが人生を楽しくするのよ!って、何で関西弁!」 「いまさら!それにお前なんかテンション高くない!」 「コイツは、幼いころ関西で育ったからな。そのときの癖が抜けないのだ。おっと、そろそろ本題に入らねばな。」 八王はそういうと、一本の巻物を取り出し、それを広げた。 「《太陽の書》に接続。《書棚》は《世界》。設定は《解説》。司書のアルタイルを、補助につけろ。」 《understanding・・・》 そして、少女はその巻物に吸い込まれるように掻き消える。 「おい・・・大丈夫なんか?」 「何がだ?」 「その道具、普通の人間が使うと流れ込んでくる情報量が多すぎて、発狂するとか言うてへんかった?」 「そうだな。そんなときもある。」 「・・・。お前、実は鬼畜やろ!」 「失礼な俺ほど優しい奴はいないのだぞ・・・自然に。」 「人間に厳しいゆうとるんや!」」 うっそうと茂る森の中に颸;新の怒声と、八王の紅茶のカップを置く音だけが響いた。
2009/12/24 14:44:25 [899]一見、仲が良さそうに歩いていく二人の背中を、一つの視線が追っていた。その視線の主は、さっきまでのウィルたちとおなじように道の端で寝転んでいたが、二人の姿が見えなくなると、のっそりと立ち上がり、貝殻を取り出した。その貝殻には無数の文字が刻まれており遠くの同じような貝殻に音を届ける、いわば携帯電話みたいなものだった。 「《傍観》より《盗賊》へ。異界が初めてそうな奴を見つけた。桃色髪の女と一緒だ。後は煮るなり焼くなり好きにしてください。」 『解った。協力感謝する。金はいつものところで渡そう。』 「まいど、どうも。またのご利用お待ちしています。」 男はそれだけ言うと、その貝殻を握りつぶし不気味に笑った。 「さぁて、今度の奴はどこまで耐えられるかな?」 そして、まるで幻のように男の姿はそこから消えた。
2009/12/24 14:44:3 [906]小年がそんなことを考えていると、突然ファイルが立ち上がり、少年の顔をじっと見つめた。 よく見るとコイツ美人なんだよな・・・ちょっとお目にかかれないぐらいの。男ならこの幸せを享受するべきでは・・・。などとちょっと邪な事を考えながら、少年は彼女が十七年間いなかった《ある意味ミラクル君》(ようするにウブ)なのでとりあえず目をそらし、尋ねた。 「なんだよ。」 「ふむ・・・やはり名前が欲しいな・・・。」 「は?」 「まさか本名を呼ぶわけにも行かないだろう。それともお前は不特定多数の人間に縛り付けられるのが趣味なのか?」 「人をマゾヒストみたいに言うんじゃねぇ!でもまぁ、それも一理あるな・・・なんかある?」 「クズ。」 「・・・。」 「変質者。」 「なぁ、もういいかげん許してくれないか?こう見えて結構繊細なんだぞ。」 少年はちょっと泣きながら、そう言った後、一つの言葉を思いついた。 「I will be back・・・。」 「・・・なんだそれは?」 「私は必ず帰るって意味なんだ。名前はそこから取りたいんだけど・・・。」 「バック。」 「後ろ向きだな・・・。」 「じゃぁウィルで。」 「まぁ、そのくらい短いほうがいいか。」 「二つ名は・・・まだいいな。自分で決めるものじゃないから。」 「そうなのか?」 「そうなのだ。さぁ、旅を続けよう。もう充分休んだろ。」 「そうだな・・・早く帰りたいって、さっき英語で宣言しちゃったし・・・。」 少年はそう言うと、勢いよく立ち上がる。 「さぁいこう。この世界に長居するつもりはないからな。」 「ここで休んだのはお前が疲れたと言い出したからだぞ・・・。」 「・・・うるさい。」
2009/12/24 14:42:31 [240]「お前はもっと早くにそれを聞くべきだったな!」 「す、すいません・・・。」 「まぁ、いい。私もちょうど言っておかなくてはいけないと思っていたところだ・・・。」 そこで、ファイルはしばらく考え込み、顔を真っ赤にして何とか言葉をつむぎだす。 「う〜んとだな・・・。」 「?」 「本名を知られるということはだな・・・魂を握られることと同義だということは教えたな?」 「ああ。」 「つまりだ、本来ならそこまで深い関係になる人間でないと本当は教えられないということだ・・・家族とか、親友とか・・・。そ、その・・・。」 「・・・はっきり言えよ。」 「こ、婚約者とか・・・。」 「・・・。」 少年はとりあえず、思考を一旦シャットダウンし現実世界に戻ったら何をしようかと言うことに思いをはせた。とりあえず母さんの味噌汁を食べることを決意した後、改めてその言葉を咀嚼する。そして・・・ 「エェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」 母さん、姉さん。俺はどうやらとんでもないことをしてしまったようです・・・。 「ま、まて!落ち着け!きっと何か方法があるはずだ!俺とお前の婚約を解消する方法が!」 「だ、だからお前を帰すために仕事をホッポリ出して西の山脈に向かっているんだろうが!と言うかそんなに嫌か貴様!それはそれで女として傷つくぞ!」 錯乱気味に言い合う二人を見て、痴情のもつれと見て取ったのか、街道を利用している人たちは目もあわせずそそくさと通り過ぎていく。そんな平和な時間が二時間ほど続いた後、 「もうやめよう・・・疲れた。」 「そうだな・・・今さら言い合っても仕方がない。」 二人は怒鳴りつかれて二人一緒にグッタリしていた。そこで少年はあの殺気を隠そうともしなかった隊員達の顔を思い出す。それはそうだろう。自分達の大切な隊長がどこの馬の骨とも知れない男と事故で婚約を結んだとなれば、ブチキレたって当然だ。俺でもその男を殺そうとする。まぁ、殺されるのは嫌だけど・・・。
2009/12/24 14:41:51 [585]旅に必要なものは一体なんだろうか?貴方だったら気力と根性じゃない。 数時間前に交わした会話が、今、まざまざと頭の中に甦る。 「くそ・・・車が欲しい。」 「やっぱりな。貴様達の世界から来た人間は、その《クルマ》とか言う奴になれてしまって足腰が弱っているのだ。だからほんの数キロ歩いただけで息が上がってしまう。」 ファンタジー王国から延びる一本の街道の端によって、グッタリとする少年にファイルは水筒を差し出す。少年はそれを受け取ろうとして、少しだけファイルの手に触れた。次の瞬間。 「・・・!」 ファイルはその水筒を取り落とす。当然飲みやすいようにふたは開けて合ったので、中身は容赦なくぶちまけられ、少年の服をぬらした。 「・・・もう何なんだよお前。そりゃ本名を勝手に見たのは悪かったけどさ、何もここまで嫌がらせに徹することないじゃん。」 「いや、そういうわけではない・・・。」 「それともなんですか?うぶな少女なんですか?男の子に手を触られるのも恥ずかしい乙女なんですかコノヤロウ!」 なんだか色々ありすぎて、ヤケ気味に、つっかかる少年の言葉に、 「あ、あんたになにがわかんのよぉおおおお!」 ファイルは真っ赤になって激怒した。どうやら触れてはいけない琴線に触れてしまったようだ・・・。 数時間前、あの散らかった部屋から必要なものを発掘(捜索ではなく)し何とか旅の準備を整えた二人は、城門から西の山脈へと出発した。その際に、ミシェルと第一連隊の隊員たちが見送りにきたのだが、隊員たちは、全員殺気にまみれた視線を少年に送りつけてきていたので、話も聞かずに早々に出発したのだ。感動の別れも何もあったものではない。 ファイルはどうやらそのことを気にしているらしい。 「何を愉快な勘違いをしておるのだ貴様は!」 「あれ違うの?と言うか、口調は女言葉にしないんだな。」 「あれはプライベート用だ。これは仕事の一環として見ている!まったく、そうでなければどうしてこんなやつと・・・。」 ・・・随分嫌われたねぇ、俺!初対面でももうちょっと対応が柔らかかった気がするぞ!内心そうもだえ苦しみながら(彼は意外とナイーブなのだ)とりあえず問題解決のため話しかけてみる。 「えっと、ファイルさん?」 「なんだ?」 「どうしてそんなに怒っていらっしゃるのですか?」
2009/12/24 14:41:5 [972] 《外伝》 少女が見たのはうっそうと茂るジャングルだった。 「な、なによここは!」 「思ったとおりの場所に出られたみたいだな。」 右目に、漆黒の三日月形の傷が刻まれている少年は、大きな欠伸をしながら、辺りを見回す。 そこには、一人の少年が安楽椅子に揺られながら座っていた。サラサラとした赤毛に、知的な光をたたえた少し鋭い碧瞳。顔立ちは、神の手によって作られたがごとく整っており、そこらへんのアイドルならはだしで逃げ出すほどの美形だった。 「フン。颸;新(ししん)か。」 「脅されちゃってさ。ツイつれてきちゃった。」 「バカを抜かせ。二番手である貴様を脅迫できる人間など虹輝(こうき)ぐらいだろうが。」 そういうと、少年はゆっくりと立ち上がり、少年の美しさに呆然と座り込んでいた、少女の前に立ち、手を差し伸べる。 「ようこそ、One-way traffic fantasy へ。私の名前は火尾八王(ひび やおう)こちらでは、《紅蓮の大賢人》と呼ばれている。」
2009/12/24 14:37:35 [376]「・・・。」 タメを・・・。 「って、しつけーよ!」 容赦ないとび蹴りが決まった。 「き、貴様!仮にも一国の女王たるわらわに向かって何という無礼を!」 「仮にもって自分で言っている時点で悲しくならないのか、お前!」 「まぁ、確かに文字数について配慮しなかったのは筆者にかわいそうなことをしたと思うが・・・。」 「次元を超越した話をするのはやめろ!」 話の内容が、崩壊しそうなせりっふだった。 「ああ、もういいですから話を進めてください!城壁ぶち壊すほどの威力を持った拳で殴られたいですか!」 ファイルの軽い恫喝に、ミシェルは冷や汗をかきながら、何とか答える。 「やつの名は《紅蓮の大賢人》。《万象の図書館》の管理人じゃ。 * * * 《上のタイトルが決まったあたり・・・》 「装いも新たに新スタートか・・・タイトルは決まったな・・・。」 「ファイル・・・前回も言ったけど、次元を超越したことを言うのはやめてくれ・・・話が進まないから。」 「わ、私に話しかけるなこの変質者!」 「・・・。」 何で俺はそこまで言われなきゃいけないんだ・・・。顔にあからさまな不満の色を浮かべつつ、少年は旅のための荷造りに専念した。 あの後、ミシェルが話した話はとんでもないものだった。 『紅蓮の大賢人?』 『そう、彼の伝説は、この国の起源までさかのぼ・・・。』 『サクッと話せ!』 『淡白なやつめ・・・そんなんじゃ、誰からも相手にされんくなるぞ!』 『お願いですから早く話していただけませんか?』 再び、ファイルを軽くキレさせたところで、ミシェルはようやく話を進めた。 曰く、西の魔物が住まう山脈の奥地に、この世のすべてを知るといわれる、賢人が住んでいる。彼を訪ねれば、元の世界に戻る方法がわかるかもしれないということだった。 『じゃがあまり勧めることはできん。』 『どうして?』 『その山脈の魔物が異状に強くてな。誰一人として帰ってきたものはおらんのじゃ・・・。』 ミシェルの最後の言葉を思い出し、少年は少し震える。 「まったく。絶対生き延びて帰ってやるからな・・・。」 今だ見たこともない魔物たちに恐怖しながらも、少年はそれでも、諦めようとはしなかったのだった。
2009/12/24 14:36:0 [877]「そ、それで一体どうするつもりだ・・・・。」 「あは!陛下その前にそのむかつく笑い引っ込めないと私の怒りの鉄拳が貴方を粉砕しますよ!」 「いや、ちょっと待て、ファイル!それはしゃれにならない!お前の魔法はただでさえそういったことに特化しているんだから!」 真っ青になって玉座から逃げ出すミシェルを見つめながら、少年は大きく溜息をついた。本当にここの王様は見た目といい性格といい王様らしくない・・・。 「だが、それは確かに困ったことになったのう。仮にもワシの近衛連隊の第一連隊隊長・・・いや、この場合花子か・・・が、常に誰かに魂を握られているというのは少し都合が悪い。」 「・・・!アンタは、こいつの本名を知っているのか?」 「もちろんじゃ!近衛が反乱をおかしたとき、そうすればアッサリ止められるじゃろう?」 「・・・。」 そういったことを本人達の前で言うのはどうかと思うが・・・他人ごとなので首は突っ込まないでおいた。 「仕方がない。あの人のところへ派遣するか。」 「あの人。」 「おぬし、自分の世界に帰りたいのじゃったな?」 「ああ。そうだ!」 「それで、花子は本名を知られた人間を消したいと!」 「ちょっと待ってください!それだと私がこの子を殺したいみたいじゃないですか!」 ファイルからの文句は完全に黙殺し、 「だから、唯一この世界から少年を送り出せるかもしれない人間を紹介しようと言うのじゃ。」 ミシェルはそう続けた。 「それは一体誰なんだ?」 「そのものは、孤高にして、天才。孤独にして、博識。この世のすべてを知る男・・・。」 そこで、ミシェルは言葉を切り、たっぷりタメを・・・ 「・・・。」 タメを・・・ 「・・・。」 タメを・・・。 「・・・。」 タメを・・・。
2009/12/24 14:35:39 [387]《外伝》 私の弟は、昨夜から姿を消してしまっていた。心配のあまりゲッソリとやつれた両親の話だと、肝試しに行ったんだそうだ。 「あのバカ・・・どこ行ったんだよ!」 私は泣きそうになりながら必死に弟の姿を探した。学校、公園、図書館、レストラン各種にカラオケボックス・・・。病気以外で休んだことがない私がわざわざ学校をサボってまで探してやっているのに、弟は見つからなかった。 その時、私は一人の少年に出会った。右目に漆黒の三日月形の傷が走っており、少しだけ左右の目の開き具合が違う少年は、無造作に伸ばした長髪を、いいかげんにゴムでまとめながら、平然とこういった。 「《** **》のお姉さんですね?彼は無事ですが二度と戻ってきません。ご愁傷様です。」 それだけ言って、さっさとどこかへ行こうとする少年の襟首を捕まえ、私は出来るだけ優しい笑みを浮かべてこういった。 「てめぇ、何か知っているんだったらとっとと吐け!絞め殺すぞ!」 口調も変えておくべきだったと今は後悔している。せっかくの今世紀最大の私の素晴らしい笑顔が台無しになったことを私は悟っていた。 「ぐぇ・・・。か、彼は《一方通行世界》にいったんですよ!二度と戻れない、冒険世界への片道切符を掴んでしまったのですから・・・。」 その少年が話したことは、信じられないものだった。 そして、数時間後、私の前に鏡色の門が出現する。私は少年を引きずって私はその中へと飛び込んだ。だがそれは、また別の物語。
2009/12/24 14:35:26 [392]「あの、少年君。」 「その呼び方は非常に不本意だけど、なんだ?」 「そろそろ私の部屋に帰して欲しいんだけど・・・。」 「ここはお前の部屋だ!」 ぴかぴかに掃除された、己の部屋に動揺を隠し切れず、キョロキョロするファイルに溜息をつきながら、少年は次の部屋へと取り掛かるために、一枚の扉を開ける。 「あそこは物置で、開けると・・・。」 「ぎゃぁあああああああああああああああ!」 凄まじい轟音とともに、ギュウギュウに詰め込まれた雪崩のように少年に襲い掛かる。 「あ、あの大丈夫・・・?」 心配そうに声を掛けてくる、ファイルに少年は怒りで全身をブルブル震わせながら、のっそりと立ち上がる。 「あ、ん、た、はぁあああああああああ!」 噴火一歩手前で行った少年の目の前に、一枚の紙切れが落ちてきた。 「あぁ?何だ一体!」 「あ、ちょっと待って!それをみないでぇええええ!」 その紙切れには、複雑な模様とともに、一つの名前が書かれていた。 「藤崎花子?」 「はう!」 その時、ファイルが、自分の胸に手を当て、ビクンとのけぞる。 「な、何てことを・・・。」 「これ・・・もしかしてお前の、本・・名?」 ファイルは目にいっぱい涙をためながら、こっくりと頷いた。
2009/12/24 14:34:59 [124]初めて入る女の部屋だ。いくら相手が粗忽な男に混じって剣を振っている少女だからといって少しぐらいは期待してはいたのだ。 「・・・。」 でも・・・いやだからこそ・・・これは無かった。 「どうしたの?適当に座って。」 「どこに・・・。」 少年は部屋を見回し、愕然とした。散らかりっぱなしの食品類はまだ許そう。この世界には冷蔵庫が無いみたいだからしょうがない。だが、おそらく貴重なのであろう分厚い本は無造作に積み上げられところどころページが折れていたり、そのほかの食器や、調度品にはすべてひびが入っていたり、部屋の隅には無数の蜘蛛が巣を張っており、白い壁のようになっていたりするのは一体どういうことだろう?極め付きは下着まで無造作にほったらかしにされているあげく、その上を黒い脂ぎった昆虫が素早く、カサカサと歩いていた。 これはひどい。少年はあまりにひどすぎるこの惨状に涙が出てきた。その時、その昆虫が少年の顔に張り付いた。 「あっと、ゴメン。しつけが行き届いていなくて・・・。」 なんだかもうペット気分のファイルのセリフに少年はギリッと奥歯をかみ締めながら、絞り出すような声で呟いた。 「ファイル・・・すまない。五分だけ俺に時間をくれ。」 「?」 「俺が安心して住めるようにこの部屋を少し綺麗にしたい。」 少年の戦争が今始まった。
2009/12/24 14:32:42 [730]「言霊ってしっている?」 「むしろ明らかに西洋っぽいこの世界で聞いたことのほうが驚きだけど・・・確かオカルトの話だよな?」 「あえてバカっぽく言えばそうね。」 「喧嘩売っているんだな?そうなんだな!?今機嫌悪いから受けてたつぞ!!」 少年は大声を出して、ファイルに掴みかかろうとするが、アッサリ足を払われて、地面に転んでしまった。 「くそ・・・第一連隊隊長の肩書きは伊達じゃないか!」 「素人転がしたくらいでそんなこと言われてもねぇ・・・。」 心底困った顔をするファイルだが、とにかく、話を続ける。 「この世界ではそのことは、ただの迷信ではすまないわ。特に名前に関することは・・・」 「もし知られたらどうなるんだ?」 「魂を握られたのと同じと考えなさい。すくなくとも無事ではすまないわ。」 「・・・。」 何かとんでもない世界にきてしまった気がする。 「だから、みんな本名は明かさないわ。ロンギヌスにも『異界の〜』とかがついていたでしょ?」 「ああ、たしかに・・・って、ちょっと待て。だったら国のトップが堂々と『ミシェル・ウンタラカンタラ・・・』って名乗っているのはまずくないか?どう考えても本名だろ、あれ。」 そう、確かにここの女王(と呼ぶには抵抗のある容姿だったが)はやたらと長ったらしい名前を名乗っていた。 「ああ、あれは王家に伝わる代々の二つ名で・・・。」 「王族ってやつは暇なんだな・・・。」 「む!失礼なことを言わないでよ!私の上司なんだから。」 普通の女の子のようにほほを膨らませつつ、ファイルは一つの古本屋の前で立ち止まった。 「ここが私の下宿なの。」 「ふ〜ん。」 「上がりなさいな。」 「は?」 「しばらく面倒見てあげるわ。どうせ行くところ無いでしょう。ちなみにこれは女王命令であって、他意とかは一切無いのでそこのところはよろしく。」 「・・・」 そう言って、さっさと古本屋の2階につながる階段を上っていくファイルを見送りながら、少年はさっきのセリフの意味を考えた。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 つまり、年頃の男女が二人きりで、共同生活と言う図式が出来上がる・・・。 「って、ええぇえええええええ!」 彼女いない歴17年。クラスメイトの間ではある意味ミラクル君と呼ばれる彼には、少しハードルの高い事実だった・・・。
2009/12/24 14:31:5 [984]グッタリ落ち込んだまま男子寮を出た少年は早朝の街を歩き始めた。 『まぁ、住めば都って言うし。ここの人たちは異世界の住人になかなか寛大だから、生きることに苦労はしないと思うぞ。』 日本ではなかなか聴けない言葉で励まされた・・・。普通に過ごしていれば、日本では生きることは大前提となるはずなのだが・・・。あの人どこから来たんだろうか? その時、一瞬少年の視界がブレた。 「あれ・・・?」 「あれ。こんな所で何をしているの?」 その時、白いワンピースを着た、桃色の紙を持つ少女が少年の前に現れた。 「ん?誰ですか?」 「ああ、解らないか。大抵の人はギャップが激しいって驚くからねぇ。」 そう言うと、少女はいままで縛らずにながしていた髪を手でまとめてポニーテールのようにし、少しだけ顔の表情を厳しくする。 「これで解るか?」 「あ!あんた!」 「自己紹介がまだだったな。私は王立近衛連隊第一連隊隊長《閃光のファイル》だ。宜しくな。」 * * * 「俺としては、どっからどう見ても俺と同い年のお前が、近衛連隊一番の実力者達が集まるとロンギヌスさんが言っていた第一連隊の隊長だってことに、非常に驚いているのですが、それもまぁ無視して一言だけ言わせてくれ。なんで、ここから出られないことを始めに教えてくれなかった!」 「私の任務は、新しい来訪者の保護であって事情説明ではないわ。」 顔に似合わず冷たいことを言いながら、少女は紙袋から取り出した、長いパンをムシャムシャ食べている。ちょうど商店街だったので、店を開き始めた人々が次々と声を掛けてきた。なかなか人気があるようだ。 「そういえば、あなた。まだ誰にも本名明かしていないでしょうね?」 「ああ。ロンギヌスさんもそんなこといっていたな?どうしてだ?」 「それは・・・」
2009/12/24 14:29:48 [742]女王ミシェルとの謁見は終わり(というか、これ以上はミシェルがキレずにいるのが難しくなったため切り上げた)少年はロンギヌスの案内で、近衛連隊の隊員たちが住んでいる男子寮へと足をはこんでいた。 よく言えば長年使い込まれて味が出た、悪く言えばボロッちいアパートみたいな男子寮の中にあるそれないりに広い食堂で、ロンギヌスと少年は話していた。 「俺の名前は《異界のロンギヌス》一応近衛連隊第二部隊の隊長をしている。もちろん本名じゃないぞ。」 「俺は・・・」 「ああ、いい。名乗るな。」 「?」 「それについてもおいおい説明はしていくが、今はお前の用件のほうが先だな。確か、お前の世界に帰る方法が知りたい、だったよな。」 「はい。」 「単刀直入に言わせて貰おう・・・無理だ。」 「は?」 「この世界の有史以来、別世界から渡って、ここから出て行ったものはいない。」 「う・・・そだろ。」 「だからこの世界はこう呼ばれているのさ。one-way traffic fantasy 。一方通行世界と。」
2009/12/24 14:28:41 [848]「な、なんじゃ!その不満そうな顔は!」 「いや、だってさ。俺アンタに色々聞いてこの世界から出る方法を探そうとしていたんだぜ。それなのに、こんなガキが女王だなんて・・・絶望するしかないだろ?」 「一国の王に対する口の聞き方ではないな?地下牢にぶち込まれたいか?」 普段の少年なら、ビビってしまうほどの迫力が含まれた言葉だったが、何もかも諦めてしまった少年にとっては、相手がどれほど怒ろうがどうでも良かった。 もう、これからの人生に味わうであろう不幸を一気に受けてしまった程の表情で落ち込む少年を見かねて、女王ミシェルは寛大な態度で、先ほどの暴言を許し、話を聞いてやることにした。 「まぁ、何か悩み事があるなら聞いてやるぞ?」 「ガキに話してもねぇ・・・。」 やっぱり殺そうと再び決意し、とりあえず地下牢送りの書類にはんこを押そうとしたその時、 「近衛連隊、第二から第五部隊ただいま魔物討伐より帰還いたしました。」 暑苦しい大声とともに、一人の巨漢の騎士が入ってきたため、やむなくその作業を中断する。この男も異世界から渡ってきたため、少年のような異世界人には好意的なことを知っていた。そんなやつの目の前で、地下牢送りを申し付けるのはさすがにまずいと思う程度の分別はミシェルも持っていた。 「《異世のロンギヌス》勤めご苦労であった。兵舎で休め。」 「は!」 「!ちょっと待ってください。あなた他の世界から渡ってきた人ですか!」 「ああ?そうだが?」 「手がかりみつけたぁアアアアアアアアアアアア!」 少年が突然上げた大声に、ミシェルはひっくり返り、ロンギヌスは思わず固まるのであった。
2009/12/24 14:27:7 [258]正直言って予想の範疇を超えた光景だった。 「何だこれ・・・。」 小年が桃色髪の少女に呼ばれ部屋を出たときには廊下に等間隔で兵士が並んでいたのだ。ざっと見積もって、300メートル弱の廊下に左右あわせて300人ほどいた。 「でも、これだけ兵隊集めているって事は・・・おれ、警戒されている?」 「そういうわけではないのだが・・・まぁ付いて来い。」 そう言うと、少女は苦笑しながら兵士だらけの廊下を悠々と歩き出す。少年はその後ろについて、恐る恐る歩き出した。 「今城中の兵士魔物討伐に出払っていてな。」 「え、じゃあ、これは一体・・・?」 「陛下の幻影魔法だ。一応来訪者に見栄を張らないと城の体面が保てないのでな・・・。」 「それ、教えちゃいけなかったんじゃ・・・。」 「なに、陛下はそこまで狭量では無いさ。」 そして、少年はまるでドームのように広い一室へと通された。 『失礼のないようにな。』 少女はそう言って自分に釘を刺したが・・・ 「この場合はどうすればいいのだろうか?」 「何がだ?」 少年の目の前にある巨大な玉座に腰掛けていたのは、どこからどう見ても、十代前半の少女だった。 「ようこそ、ファンタジー王国へ。童がこの国統治者ミシェル・サンタクルシ・エ・ファンタジーだ。」 「もう何でもありかよ、この世界は。」 果たして、少年は元の世界へ帰れるのだろうか?
2009/12/24 14:25:59 [580]オレンジ色の街灯に照らされたレンガ造りの町には、しんとした冷たい空気が流れていた。それを、案内された城の中から観察しながら、率直な感想を少年は漏らす。 「なんだか暗い街だな・・・。」 「夜だからな。こんな時間に人がウロウロしている方がおかしいだろ?」 心配になって時間を聞いてみたら、もう夜中の四時を回っていた。 「嘘だろ、いつの間にそんなに経っていたんだ!」 「とにかく、お前は城の宿舎に来てもらう。朝一番で陛下に謁見してもらうから今日は寝るな。」 そう言うと、桃色が見の少女は、少年を置き去りにして、どこかへいってしまった。 部屋にたった一人で放置された少年は、落ち着き無く、案内された部屋の中をグルグル歩き回る。 一体自分はどうしてこんなところに来てしまったのか?あの鏡が原因だとすると、帰る方法が全く思い浮かばない。 「父さん・・・母さん・・・姉さん。」 反抗期に入り普段は鬱陶しかった家族達も、こんな状況になるとひどく恋しく思えて来る。その時、あの桃色が見の少女が言っていた言葉が、少年の頭をよぎった。 『お前のように違う世界から来た・・・。』 これはつまり、自分以外にも、この世界にやってきた人間がいるということだ。 「じゃぁ、その人たちに話を聞けば、帰る方法がわかるかもしれない・・・。」 少年お胸にともった小さな希望の火は、朝日とともに、少しずつ大きくなっていくのだった・・・。
2009/12/24 14:24:17 [147]まるで鏡のように静かな水面を切り裂き、船は進む。 その上で寝転ぶ少年の頭の中には、普通の世界においてきた、家族のことがちらついていた。まさか肝試しで入った学校の鏡に呑み込まれるとは・・・。しかも気が付いたら見たことも無い場所にいるし・・・。本当に世の中何が起こるかわからないものだ。 「おい、俺たちはどこに向かっているんだ?」 少年は、船の後ろで櫂を操る少女に向かって、尋ねてみた。 桃色の長い髪をなびかせ、金のタカの刺繍が入った青い軍服を着こなす少女は苦笑いをしながら、答えてくれた。 「私達が向かっているのは、ファンタジー王国。この世界を束ねているところだ。」 「なんかそのままな名前だな・・・。」 「お前のように違う世界から来た者はみんなそう言うな。こちらの世界では《聖なる希望》と言う意味なのだが・・・。」 その時、船をオレンジ色の光が照らした。 「ついたぞ、これがファンタジー王国だ。」 オレンジ色の街灯が無数に立ち並ぶレンガ造りの町。それが、少年が始めて見たこの世界の町の姿だった。
2009/12/24 14:23:31 [260]無数の星がきらめく砂浜で、少年はボーっとしながら、寝転んでいた。その隣には立てひざで座る少女が一人。桃色の長髪を潮風になびかせ無言で座っている。 「おれさ、昨日まで普通に高校に通っていたんだぞ?」 「コウコウ、と言うものがいまいち解らないが・・・そうなのか?」 「それが何でいきなりこんな世界にほうりこまれてんの?」 「そんなこと私は知らない。神様にでも文句を言え。」 「・・・。」 「唯一つだけ言えることは・・・。」 「なんだ?」 「ようこそ。ファンタジーへ・・・。」 静かになった浜辺には、ただただ波の音が響き渡った。
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